ソ連言語政策史再考

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表1 1897年センサスにおける民族別の識字率

母語の区分による民族 人口
(1000人)
識字率(%)
ロシア語が
読める
他の言語が
読める
初等以上の
教育を受けた
合計6)
ドイツ人 1,790 24.5 30.1 4.6 59.2
リトワニア人・ラトヴィア人 3,094 17.3 34.8 0.4 52.6
ユダヤ人 5,063 23.7 13.7 0.9 38.3
ポーランド人 7,931 13.4 16 2 31.4
フィン系1) 3,502 13.9 17.1 0.2 31.2
ロシア人2) 83,934 18.5 0.1 1.2 19.8
カルトヴェリ語系3) 1,352 4.3 9.2 1.1 14.5
他の印欧語系諸民族4) 2,191 5.2 4.7 1.1 10.9
ロマンス語系5) 1,143 6.9 0.6 0.8 8.3
チュルク・タタール系 13,601 1.4 6.1 0 7.5
モンゴル・ブリャート系 480 2.2 3.4 0 5.6
カフカス山地諸民族 1,092 0.7 4.6 0.1 5.3
北方諸民族 119 2.4 0.6 0.0 3.1
総人口 125,640 15.7 4.3 1.1 21.1

  1. フィンランド人、エストニア人など。
  2. ここでいう「ロシア人」は「大ロシア人」「小ロシア(ウクライナ)人」「白ロシア人」の計。
  3. 主にグルジア人。
  4. アルメニア人、タジク人、ギリシャ人、オセチア人など。
  5. 主にモルダヴィア(モルドヴァ)人。
  6. 識字の内訳に重複があるとすると、その単純合計をとるのは問題があるということになる。しかし、原統計が(ここに引用した個所ではなく、別の個所で)内訳の単純合計を出して、それを「識字率」の数字としているので、それにならった。
出典: Общiй сводъ по Империи результатовъ разработки данныхъ Первой Всеобщей переписи насе-ленiя, произведенной 28 Января 1897 года. (Под редакцiею Н. А. Тройницкаго). СПб., 1905. Т. II, С.134-139のデータより作成(ごく少人数のいくつかの項目を省略し、識字率合計の高い方から順に並べた)。

表2 民族別の識字率の変遷

9歳以上の者 9歳から49歳までの者
1926年 1939年 1926年 1939年
ユダヤ人 85 94.3 90 97.7
エストニア人 n.d. 94.1 n.d. 96.6
ドイツ人 78.5 79.1 94.6
ラトヴィア人1) n.d. 93.4 n.d. 96.3
リトワニア人 n.d. 89.4 n.d. 95.1
ウクライナ人 53.4 84.3 59.2 91.6
ポーランド人 58.5 84.1 63.5 91.1
ロシア人 58 83.4 64.3 90.9
グルジア人 50.3 57 92.4
アルメニア人 42.9 79 47.5 88
チュヴァシ人 41.9 78.2 48.2 88.8
ベラルーシ人 47.6 78 54.2 87.4
タタール人 41.7 77.9 46.4 85.5
モルドヴァ人 33.8 74.1 38 82.8
バシキール人 31.8 72.4 34.8 80.8
モルドヴィン人 29.1 68.1 33.1 76.7
タジク人 3 67.6 3 80.3
アゼルバイジャン 11.1 64 12.7 75.4
ウズベク人 4.8 63.5 5.2 75.7
キルギス人 5.8 63.3 6.4 75.6
カザフ人 9.1 61.8 9.9 71.4
トルクメン人 2.7 59.6 3.1 71.8
ソ連全体 51.1 81.2 56.6 89.1

  1. 原表では「ラトヴィア人およびラトガル人」。

出典: Всесоюзная перепись населения 1939 года. Основные итоги. М., 1992. С. 40,83.(後出の表4と同じ22民族を抜き出し,9歳以上の者の1939年における高さの順に並べた)。

表3 共和国ごとの識字率の推移(9-49歳の年齢層について)

1897 1926 1939 1959
エストニア 96.2 ... 98.6 99.6
ラトヴィア 79.7 ... 92.7 99
リトワニア 54.2 ... 76.7 98.5
ベラルーシ 32 59.7 80.8 99
ロシア 29.6 60.9 89.7 98.5
ウクライナ 27.9 63.6 88.2 99.1
グルジア 23.6 53 89.3 99
モルドヴァ 22.2 ... 45.9 97.8
アルメニア 9.2 38.7 83.9 98.4
アゼルバイジャン 9.2 82.8 97.3
カザフスタン 8.1 25.2 83.6 96.9
トルクメニスタン 7.8 14 77.7 95.4
ウズベキスタン 3.6 11.6 78.7 98.1
キルギスタン 3.1 16.5 79.8 98
タジキスタン 2.3 3.8 82.8 96.2
ソ連全体 28.4 56.6 87.4 98.5
包括範囲についての注:1897年の調査はロシア帝国についてなので、ウクライナのうちガリチアと北ブコヴィナは含まれていない。1926年の調査は当時のソ連に関するものなので、バルト3国とモルドヴァは含まれていない。1939年の調査は同年後半から翌年にかけての領土拡張よりも前に行なわれたが、ここでは、拡張後の領土についての推定値が挙げられている。
出典: Итоги Всесоюзной переписи населения 1959 года. Сводный том, M., 1962. С. 88-89(1897年における高さの順に並べ替えた)

表4 民族語の母語としての保存率(%)

1926年 1959年 1970年 1979年 1989年
ロシア人 99.7 99.8 99.8 99.8 99.8
トルクメン人 97.3 98.9 98.9 98.7 98.5
ウズベク人 99.1 98.4 98.7 98.5 98.3
グルジア人 96.51) 98.6 98.4 98.3 98.2
キルギス人 99 98.7 98.8 97.9 97.8
タジク人 98.3 98.1 98.5 97.8 97.7
リトワニア人 --2) 97.8 97.9 97.9 97.7
アゼルバイジャン人 93.83) 97.6 98.2 97.8 97.7
カザフ人 99.6 98.4 98 97.5 97
エストニア人 --2) 95.2 95.5 95.3 95.5
ラトヴィア人 --2) 95.1 95.2 95 94.8
アルメニア人 92.4 89.9 91.4 90.7 91.7
モルドヴァ人 --2) 95.2 95 93.2 91.6
タタール人 98.9 92.1 89.2 85.9 83.2
ウクライナ人 87.1 87.7 85.7 82.8 81.1
チュヴァシ人 98.7 90.8 86.9 81.7 76.4
バシキール人 53.8 61.9 66.2 67 72.3
ベラルーシ人 71.9 84.2 80.5 74.2 70.9
モルドヴィン人 94 78.1 77.8 72.6 67.1
ドイツ人 94.9 75 66.8 57 48.7
ポーランド人 42.9 45.2 32.5 29.1 30.5
ユダヤ人 71.94) 21.5 17.7 14.2 11.1
  1. アジャール人、ミングレル人、ラズ人、スヴァン人を含む。
  2. これらの民族も原表に載っているが、当時バルト3国とモルドヴァはソ連領ではなく、ソ連領内に住んでいたこれら民族はごく少数なので、有意ではないと判断し、載せなかった。
  3. 原表では「チュルク人」。
  4. クリミヤ・ユダヤ人、山地ユダヤ人、グルジア・ユダヤ人、中央アジア・ユダヤ人を除く。

出典:
1926: 《Всесоюзная перепись населения 1926 года》. Т. XVII. M., 1929. С.26-33より。
1959: 《Итоги Всесоюзной переписи населения 1959 года》. СССР. Сводный том. М., 1962. С. 184より。
1970: 《Итоги Всесоюзной переписи населения 1970 года》.Т. 4. М., 1973. С. 20より。
1979: 《Численность и состав населения СССР》. М., 1984. С.71 より。
1989: 《Вестник статистики》. 1990, 10. С. 69より。
(原表から22民族を抜き出し[その基準については本文参照]、1989年における保存率の高い順に並べた)。

表5 1985年における出版物の言語別内訳

点数 総部数(1000部) 1989年時点で
当該言語を母語と
する者の人数(1000人)1)
人口1000人当たり点数 人口1人当たり部数
エストニア語 1,256 12208.4 996 1.26 12.26
ラトヴィア語 1,074 12083.4 1,418 0.76 8.52
リトワニア語 1,981 18,711.2 3,035 0.65 6.17
グルジア語 1,715 18423.7 4,014 0.43 4.59
ロシア語 64,993 1848982.3 163,578 0.40 11.30
アルメニア語 764 9416.4 4,255 0.18 2.21
キルギス語 433 3132.2 2,495 0.17 1.26
モルドヴァ語 527 5377.8 3,128 0.17 1.72
アゼルバイジャン語 925 12505.7 6,648 0.14 1.88
バシキール語 133 1103.6 1,048 0.13 1.05
トルクメン語 258 3551.7 2,706 0.10 1.31
カザフ語 719 10221.0 7,934 0.09 1.29
タジク語 351 4108.8 4,276 0.08 0.96
>ウズベク語 996 23777.6 16,624 0.06 1.43
チュヴァシ語 79 454.9 1,408 0.06 0.32
ベラルーシ語 395 4975.2 7,460 0.05 0.67
ユダヤ(イディッシュ)語 8 7.5 153 0.05 0.05
ウクライナ語 1,893 77845.5 36,324 0.05 2.14
モルドヴィン語2) 34 78.5 774 0.04 0.10
タタール語 183 1771.7 5,532 0.03 0.32

  1. 共和国をもたない民族の場合、センサス報告書では、当該言語を母語とする者の総数のデータは与えられていないので、当該民族中で民族語を母語としている者の値で代替した。そのような民族の言語について、異民族でありながら母語とする者は少ないと思われるので、この近似はそれほど誤差は大きくないものと想定される。
  2. モルドヴィン語での出版は、「モルドヴィン=モクシャ」と「モルドヴィン=エルジャ」の合計。
出典:

出版についてのデータは、《Печать СССР в 1985 году.》. М., 1986. С. 24-25.

人口データ(1989年)は、《Итоги Всесоюзной переписи населения 1989 года》. East View Publications, Minneapolis, 1993,т. VII, ч. 3. С. 6.

以上より作成(人口1000人当たり点数の多い順に並べた)。

表6 ロシア共和国において授業用語として使われている言語(1970年代初頭)

どの学年まで
使われているか
言語
10年生まで アルメニア、バシキール、グルジア、カザフ、ロシア、タタール
8年生まで ヤクート
7年生まで トゥヴァ
6年生まで ブリャート
4年生まで チュヴァシ
3年生まで アルタイ、コミ、コミ=ペルミャク、マリ、モルドヴィン,ウドムルト、ハカス
2年生まで アヴァール、アゼルバイジャン、ダルギン、クムィク、レズギン、ラーク、タバサラン
1年生まで アバザ
就学予備クラスのみ ネネツ、ノガイ、チェチェン
授業用語としては使われていない アドィゲ、バルカル、イングーシ、カバルダ、カルムィク、カラチャイ、マンシ、ドイツ、オセチア、ハンティ、チェルケス、チュクチ、エヴェン、エヴェンキ、エスキモー

出典:《Народное образование》. 1972, 12.С. 23 (А. Данилов).

表7 各共和国における民族語での教育比率

共和国 基幹民族の言語で教育が行なわれている度合(学生数のパーセンテージ) 共和国人口中の
基幹民族の比率(1989年)
一般教育学校大学 大学
1986/87
学年度
1990/91
学年度
1990/91
学年度
ロシア 98.1 98.1 98.8 81.5
リトワニア 82.8 n.a. 90.7 79.6
グルジア 66.6 68.8 85.7 70.1
アルメニア 78.6 86.9 81.7 93.3
エストニア 65.1 63.0 79.8 61.5
アゼルバイジャン 79.7 86.1 77.3 82.7
ウズベキスタン 77.8 78.1 65.1 71.4
ラトヴィア 53.1 53.2 56.0 52.0
タジキスタン 66.1 67.2 48.2 62.3
モルドヴァ 59.5 60.2 45.0 64.5
トルクメニスタン 77.0 76.6 23.6 72.0
キルギスタン 51.9 55.7 23.4 52.4
ウクライナ 48.6 47.9 15.2 72.7
カザフスタン 30.7 32.3 13.6 39.7
ベラルーシ 23.1 20.8 0.4 77.9

出典:

教育用語のデータは、《Вестник статистики》. 1991, 12. С. 47- 49.

共和国人口中の基幹民族の比率については、 《Итоги Всесоюзной переписи населения 1989 года》. Т. VII, 1993, ч. 1. С. 66; ч. 2. С. 6, 154, 192, 296, 444, 484, 516, 524, 536, 548, 592, 636, 646, 690.(高等教育における比率の高い順に並べた)。

表8 各共和国において基幹民族がロシア語を、また在住ロシア人が現地民族語を、
それぞれ習得している度合(母語としての習得と第2言語としての習得の合計、単位:%)

基幹民族がロシア語を習得 ロシア人が現地民族語を習得
1970 1979 1989 1970 1979 1989
リトワニア 37.4 52.4 37.6 32.7 37.4 37.5
ウクライナ 50.6 62.7 71.7 27.4 31.2 34.3
アルメニア 37.7 34.8 44.6 19.4 27.4 33.6
ベラルーシ 67.9 79.4 80.2 22.1 30.9 26.7
グルジア 22.6 26.0 32.0 11.0 16.2 23.7
ラトヴィア 49.7 60.5 68.3 18.3 20.1 22.3
エストニア 33.4 24.1 34.6 14.1 12.9 15.0
アゼルバイジャン 17.9 28.9 32.1 7.6 9.3 14.4
モルドヴァ 40.3 49.4 57.6 13.9 11.2 11.8
ウズベキスタン 15.0 53.3 22.7 3.80 5.89 4.59
タジキスタン 16.0 28.4 30.5 2.38 2.71 3.54
トルクメニスタン 16.2 24.9 28.3 2.10 2.11 2.55
キルギスタン 19.4 28.8 37.3 1.50 1.12 1.22
カザフスタン 43.5 52.0 64.2 1.00 0.67 0.87

出典:
1970: 《Итоги Всесоюзной переписи населения 1970 года》. Т. 4, М., 1973. С. 20, 152-153, 192, 202, 223, 253, 263, 273, 276, 280, 284, 295, 303, 306, 317.
1979: 《Численность и состав населения СССР》. М., 1985. С. 102-103, 108-109, 110-111, 116-117, 124, 126-127, 128-129, 130-131, 132-133, 134-135, 136-137.
1989: 《Национальный состав населения СССР》. М., 1991. С. 78-79, 88-89, 92-93, 102-103, 114-115, 118-119, 120-121, 122-123, 124-125, 126-127, 130-131, 134-135, 136-137, 140-141.
以上のデータをもとに筆者算出(1989年時点でロシア人による現地民族語習得度の高い順に並べた)。

表9 共和国ごとの言語状況の類型化

類型化に関係する主な要因 基幹民族の言語が左の指標に該当する共和国 そのうち、ロシア人比率の高い地域
非スラヴ系 文章語の伝統がかなりある。高等教育でも民族言語が用いられる。 バルト3国,グルジア,アルメニア ラトヴィア,エストニア
文章語の伝統が相対的に弱い。高等教育で民族言語が使われる度合が低い。 モルドヴァ,アゼルバイジャン,中央アジア諸国 モルドヴァ(特に沿ドネストル),カザフスタン(特に北部),キルギスタン。各共和国の首都など。
東ヒガシスラヴ系でロシアとの近接性が大きい ウクライナ,ベラルーシ ウクライナの東部・南部・クリミヤ


本文

Summary in English